受講者各位、
7/14の動物生理学Iにおける出欠代わりの小テストでは以下の内容を問いました。
A.神経伝達と神経修飾の違いについて答えてください
B.今日見せた実験では,
培養した終神経GnRHニューロンを興奮させるため、細胞周囲の溶液に存在するK+濃度を
5mM→30mMに上昇させています(細胞内のK+濃度は130mMで一定)
なぜ細胞外のK+濃度を変えただけで、興奮を起こせるのか説明してください。
この回答ですが、まず神経伝達と神経修飾(調節性伝達)の違いについて説明します。
神経伝達は放出された神経伝達物質がイオンチャネル型受容体(イオノトロピック受容体)に結合することによって受容体の構造が変化して膜内外をイオンが通過することによって、シナプス後細胞側に興奮性シナプス後電位(excitatory postsynaptic potential; EPSP)、または抑制性シナプス後電位(inhibitory postsynaptic potential; IPSP)を生じさせる、神経細胞から他のニューロンや効果器細胞への情報伝達の様式のことを指しました。
対して神経修飾(調節性伝達)というのは神経修飾物質が代謝型受容体(メタボトロピック受容体/Gタンパク共役型受容体)に結合することで、細胞内のG蛋白質を活性化し、活性化したG蛋白質が細胞内の二次メッセンジャー分子を活性化→二次メッセンジャーによって活性化された酵素の働き/二次メッセンジャー分子が直接結合することによって、電位依存性イオンチャネルやイオンチャネル型受容体の性質を変えることで、ターゲットとなる神経細胞の電気的興奮性や神経伝達の機構を調節する(電位依存性イオンチャネルやイオンチャネル型受容体を開きやすく/開きにくくする:ポジティブにもネガティブにもどちらにも作用しうる)情報伝達の様式のことを指します。なお,神経修飾物質がターゲットとなるタンパク質に対してポジティブにはたらくか,ネガティブに働くのかは,その神経物質が結合するメタボトロピック受容体によって活性化される細胞内情報伝達経路によって左右されます。
一般的に神経伝達はミリ秒単位の早い時間経過で情報を伝達するのに対し、神経修飾による作用は代謝型受容体の活性化→ニジメッセンジャー系の活性化→対象となるイオンチャネル/受容体の修飾という一連の反応に時間がかかることから分から時間のオーダーがかかるゆっくり&持続的な変化として現れるというのも特徴です。
また講義では述べませんでしたが、シナプス前細胞から放出された物質がシナプス後細胞に対して神経伝達として作用するのか神経修飾として作用するのかは、シナプス後細胞側のどの受容体を活性化するかによって異なるため、皆さんが神経伝達物質として憶えているであろうグルタミン酸やγ-アミノ酪酸(GABA)に関してもイオンチャネル型グルタミン酸(またはGABA)受容体に結合したときのみ神経伝達物質として作用するのであって、代謝型受容体に結合した場合は神経修飾物質として作用します。
次に、Bで問うた「細胞外のKイオン濃度を上昇させるだけでなぜ神経細胞を興奮させることが出来るのか」ということですが、これには細胞の静止膜電位がどのようにして作られているのかということが理解できたら答えることが出来る問題でした。簡単に書けば、「静止膜電位状態で神経細胞はK+イオン透過性を持つため、静止膜電位はK+の平衡電位に左右されることになる。そこで細胞外のK+イオン濃度を上昇させるとネルンストの式に基づいてK+の平衡電位が脱分極側にシフトする。このため細胞膜が脱分極し、それが電位依存性Na+チャネルが爆発的に開く閾値に達すれば活動電位を生じさせることが出来るから」となります。
このことを少し丁寧に説明します。静止膜電位の形成機構は他の先生の回で習ったと思いますが、細胞膜にはNa/Kの交換輸送体(トランスポーター)という蛋白質が存在し、この蛋白質がATPのエネルギーを消費することで能動輸送によって細胞内のNa+を細胞外へ運び出し、細胞内へはK+を蓄積させています。
半透膜である細胞膜の内外でイオンの濃度に差がある場合、電荷を持っているイオンは膜内外の濃度勾配と電気勾配の両方に従って膜内外を移動します。たとえば細胞内の方が濃度が高くなっているK+イオンは濃度が低い細胞外へ移動しようとします。ところがK+イオンは正電荷を持つため、この流れによって細胞内の正電荷は減少し、細胞外の正電荷が増加する(=細胞内がマイナスに荷電する)ことによって、細胞内の陽イオンが細胞外へ出にくくなります(電気勾配が発生する)。
このイオンの濃度勾配と電気勾配が平衡になる膜電位のことを平衡電位といい、以下のNernst(ネルンスト)の式で表すことが出来ました。
E=(RT/zF)*ln(細胞外のイオン濃度/細胞内のイオン濃度)
ln:自然対数 R:気体定数、z:イオンの電荷、F:Faraday定数
この式は一価のイオンで温度が20度の時は以下のように簡単な式に直すことが出来ます。
E=58*log10(細胞外のイオン濃度/細胞内のイオン濃度)
log10:常用対数
静止膜電位の時には細胞膜はK+を通しやすいが他のイオンは通しにくいということを習ったと思います(このときのK+イオンを通すイオンチャネルの分子的実態までは習わなかったと思います。そこまで教えている教科書はまだ少ないですが2000年代になって活動電位の再分極の時に働く電位依存性K+チャネルとはイオン選択性を示す領域の構造は共通しているが他の部分の構造が異なるリークK+チャネルというイオンチャネルの仲間が発見され、それが静止膜電位の形成に関わっていることが報告されています)。この静止膜電位で開いているK+を通すイオンチャネルのために、膜電位はK+の平衡電位に近づこうとします。ですので細胞外のK+イオン濃度を変化させると変化したK+の平衡電位に膜電位も近づこうとします。ネルンストの式に小テストの時に書いた細胞内外のK+濃度を代入して、温度を20度だったと仮定すると、
最初のKの平衡電位=58*log10(5/130)≒-82.1mV
細胞外のKを30mMにしたときの平衡電位=58*log10(30/130)=-36.9mV
とK+の平衡電位が脱分極側にシフトします。ですので細胞膜が脱分極し、これによって脱分極によって開く電位依存性Na+チャネルが開いて、電位依存性Na+チャネルの開口が雪達磨式に大きくなって閾値に達すると、活動電位が生じるというわけです。
この「細胞外K+イオン濃度を上昇させることで膜を脱分極させる」方法は、細胞生理学の実験で神経細胞やそのほかの興奮性細胞を手軽に脱分極させるときに頻用する方法です。

